【短編】クロスロード ~ェンジェル~アルバム~
澄香が学校から帰ると、
淳一が帰宅していた。

「ただいま、
淳一お兄さんっ」

「おぅっ、おかえりっ」

「今日は早く出たの?
朝いなかったね」

「うん。
朝練があってね」

「大会近いんだぁ」

「うん、そう」

「先生も大変だねぇ」

「アハハ…まぁね」

淳一は、男子高の教師をしている。


「あれ?
真梨子お姉ちゃんは、おでかけ?」

「あぁ、うん」

「そっか。珍しいね」

真梨子は専業主婦で、
いつも家にいる。

出かけたとしても、
夕食の準備があるので、淳一や澄香が帰る前には、いつも帰宅していた。

「お買い物?」

「あ、…うん…」

「?」

淳一の返事は歯切れの悪いものだったが、
澄香は、
別に気に留めなかった。

「あっそうだ!

淳一お兄さんっ、
おめでとうっ」

「え?何」

「何って、
赤ちゃんっ!」

「赤ちゃん?」

「そうっ
赤ちゃん、できたんですってねっ
おめでとうっ!!」

澄香はとっても嬉しくて、お祝いの言葉を送った。

なのに、

何故か淳一は、
普通の表情をしている。

「あれ?お兄さん?」

「あぁ…
真梨子が言ってた?」

「うん、そだよ。

ん?お兄さん、嬉しくないの?…?」

「いや、…

違うんだ」

「え?」

「赤ちゃんは、
出来てないよ」

「え?
だって、真梨子お姉ちゃん、言ってたよ。
あんなに喜んで。
私も、おめでとうって言って」

「……そう。
でも、違うんだ」

「え、…じゃあ、どうして」

「澄香ちゃん、
ごめんけど、
真梨子の話に合わせていてくれるかな」

「え?どうして」

きょとんとなる澄香。

「ただいまぁ~」

玄関から、
いつもの様に明るい真梨子の声がした。

「そっとしててほしいんだ。そして、
真梨子の話に合わせてあげてほしい。
澄香ちゃん、お願いします」

澄香にお願いする淳一。

澄香は、
不思議そうに思いながらも、
了解して頷いた。
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