おばあちゃんの思い出
痴呆の症状があるかもしれないというのは
お医者さんから聞かされていた。

短い外泊期間が終わって、入院生活が始まった。
あれからおばあちゃんは、色々な事を忘れていった。

やがて、私のことも
「ねぇ、あきちゃん?」

あきちゃんは、私のお母さんの名前だった。

それでも、私は毎日おばあちゃんの傍にいた。
それがせめてもの恩返しだと思っていたし
おばあちゃんの笑顔が見れることは
私にとって幸せなことだった。

「おばあちゃん見える?今日はお星さまがきれいだよー」
ある晴れた日の夜、私は病室の窓の外を見ながら言った。

「あきちゃん、本当だねぇ。きれいだねぇ。」
おばあちゃんは楽しそうだった。

西の方から流れ星が流れた。

私は静かに手を合わせて眼を閉じた。
『神様、おばあちゃんは幸せですか?』


「果穂ちゃん。」
びっくりした。
おばあちゃんにそう呼ばれたのは
すごく久しぶりだった。

おばあちゃんは真っすぐ私を見て
静かに言った。

「ありがとう。」



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