この恋が終わる瞬間を

side 深町さやか

*

「音大は諦めたの?」

何気なく静司は聞いたつもりだろうけど、その声はいつもより少し緊張していた。

「無理だよ。だって、もう一年以上弾いてないんだよ?」

私は、そう言って笑って見せた。



音楽一家に育った私は、小さい頃からピアノを習っていた。

もちろん大学だって、音大に進むつもりだった。

…一年前までは。


一年前のあの日から、私はピアノに鍵をかけてしまった。

もう弾きたくない、楽譜も見たくない。


でも静司は、私が音大を目指してたのを知ってるから。



静司が心配してくれてるのはわかってる。

私がピアノをやめてしまったのを残念がっていることも…。
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