この恋が終わる瞬間を
【3】海の側で

冷たい部屋

* * *

…何も考えたくない。

何も考えたくない、今は。


「…ばか、さやか」

見上げると、春樹が呆れたような困ったような顔をしていた。


あまりよく覚えてないけど、とにかく私は家に帰っていた。

帰ってから、鞄も何もかも忘れてきてしまったことを思い出す。

…―鍵、ないや。

鍵は鞄の中にある。

家にも入れない。

携帯も置いてきてしまった。


取りに戻りたくはなかった。

静司には会えない。


…―静司。

どうしてあんなことしたの?

どうして急に…。


ドアに背中を預けて、ズルズルと座り込む。


何も考えたくなかった。

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