夜明け前
 「佳奈子って批判的だよね」
 「批判的?」 
 「そう、大人に批判的」
 向かい合ってパンをかじっているのは、隣のクラスの麻里子だった。
 佳奈子はストローを口から離した。
 「そうかな」
 「だって、聞いていたら批判ばっかり」
 「麻里子は全然、感じないの?」 
 「うーん」
 麻里子はパンをあわてて飲み込みながら続けた。
 「思わないことは無いけど、そんなの仕方ないことだし」
 「仕方ない?」 
 「そうでしょ、立場違うんだから」
 佳奈子は、なんて冷めたことを言うのかという目で麻里子を見た。
 それが大人な考え方? 
 「よくわからないなあ」
 佳奈子は言葉を濁した。立場が違うなんて言われたら、もう返す言葉なんて無い。
 「だって、そんなのいろいろ言っても何も変らないじゃない。そんなの、エネルギー使うだけ損だもの」
 麻里子はさらさらとそう言った。みんなわかってるのよ、っていう調子で。
 麻里子たちは演技しているわけではないのかもしれない。
 もう、とうの昔にいろんなことを諦めて、もうそれはそういうものなのだと納得してしまっているらしい。言っても同じ。何も変わらない。それは確かだ。
 そんなことで悩んだりイライラしたり、無駄なエネルギーを使うことは、自分を壊してしまうことになる。それも正論だ。
 「けど、そんなのつまんないね。何も楽しくないじゃない」
 「楽しくなんてなくていいの」
 麻里子は即答した。
 佳奈子がこの一年間、ずっと悩んできたことに即答した。
 佳奈子は麻里子の顔を見つめながら、次の言葉を待った。
 
< 17 / 28 >

この作品をシェア

pagetop