夜明け前
 地下鉄が叫びながら近づいてきた。
 それを知らせるベルが鳴り響く。そして風が起こる。
 「地下鉄のホームやな」
 「正解」
 「学校、楽しくないのか?」 
 「・・唐突な質問ですね。どうして?」
 「学校楽しくて夢中で行ってる奴が暇つぶしにこんな電話かけてくるか?」 
 「うーん・・少なくとも、暇つぶしなんかじゃないですから」
 「じゃあなんだ?」 
 「それは・・出会い。もしくは運命」
 「あほらし」
 「あなたは、わたし・・でしょ?」
 「はい?」 
 ユウスケは訳が分からなくて聞き返した。
 佳奈子は、言葉を捜して、少し間をおいた。
 「ちょっと、感じるものがあった・・というか」
 「なんだ、それは?」 
 「まっすぐに生きると、いろんなところにやたらぶつかるってことです」 
 「わかるようでようわからんな」
 「あらゆることにストレートなのって、分かりやすそうに見えて、実は理解されにくいっていうこと・・感じませんか?」 
 ユウスケは急に黙り込んだ。何となく、佳奈子の言っていることが分かるような気がした。自分は、馬鹿が付くほど真正直な人間だと自負している。
 嘘やごまかしが嫌いというより、不器用なので裏と表を使い分けて生きることができないのだった。だから、自分がストレートな分、人にもそのまままっすぐぶつかる。
 やわらかくオブラートに包んだような言い方もできない。
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