夜明け前
  だから、それが人によっては冷たく感じることも多々あるのだと思う。
 人の気持ちが分からない人間だと言われたこともある。
 まわりの空気が読めない人間だと言われることもある。
 裏表がないということは、本来なら、これほど分かりやすいことは無いはずたのだが、裏表があるのか無いのか、それは誰にも確証の無いことなので、かえってそれは分かりにくいことだと受け取られてしまうことになるのだった。
 「あの、なあ」
 ユウスケは、ちょっと言葉を濁すようにして話し始めた。
 「なんでしょう?」
 佳奈子は、ユウスケが始めて自分から何かを話そうとしている何かをドキドキしながら待った。
 「おまえ、人の気持ちってわかるか?」 
 「そんなもの、わかりません」
 「即答かよ」
 「だって、それは憶測の世界ですからね、・・そうかもしれないっていうことでしょ。確かなものではないです。だから、人の気持ちなんて聞かないとわからないじゃないですか」
 「ははは、それは正論だ」
 「でも、察する・・っていうのは大事なアイテムなのかも」
 「察する、ねぇ」
 「言わなくてもわかって欲しい人がたくさん居るんですよ」
 「そうかもね」
 「でも・・それは本当は無理なことなんですよね」
 佳奈子は、ふぅとため息をつきながら続けた。
 「無理なことなんだけど、それをやるからいろいろと混乱したり、トラブったりするんだと思うんだけど。でも、そういう内面的操作って、みんな好きですよね」
 「まあ、とくに女・・が、ね」
 「女だけじゃないと思うけど。分かり合えるって言うことが愛情とか友情とか信頼の証みたいな・・。でも、それって本当は錯覚だと思うんだけど」
 「錯覚か・・」
 「だから、どんどんズレが生まれてしまって、気が付いたらどうして・・?ってことになったりするんだと思うんですよね」
 「おまえ・・」
 「なんですか?」 
 「なんか、冷めてんのな」
 「よく言われます」
 佳奈子は苦笑しながら答えた。
 ユウスケは、言いながらハッとした。それは、いつも自分が言われている言葉だった。冷めている・・? いや、冷めているんじゃない。彼女は思ったことを思ったままに言っているだけだ。いつもの自分のように。
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