夜明け前
 あなたは、わたし・・か。
 なるほど、ね。
 ユウスケは、何だか初めて不思議な感覚に包まれた。
 「未来への扉か。なんだかわからないけど、まるで自問自答しているみたいな気分になってきた」
 「でしょう?」 
 「変なやつだな」
 「お互い様です」
ユウスケは、ふふっと笑った。
 「じゃあ、またな」

 電話は程なく切れた。
 相手のことは何も分からない。どんな人なのか、年齢は幾つくらいなのか、どこに住んでいるのか、何も知らない。顔なんか、想像もつかない。
 でも、だからいいのかもしれないと佳奈子は思った。
 どこかで出会っても、目の前をすれ違っても分からないだろう。
 何の利害関係も無いから、何も気にしなくてもいい。相手にどう思われてもいい。
 価値観が同じかどうかは、もちろん、よく分からないが、それほど考え方がかけ離れている気はしなかった。そして、これも全部、想像と憶測の世界なのだが、型にはまったお行儀いい生き方はしていないような気がした。だからと言って、いい加減で人の気持ちを平気で踏みにじったり、傷つけたりするような人では無いと感じた。
 少なくとも、佳奈子は自然体で話ができた。思ったことを思ったまま話せた。
 相手の気持ちを探ろうと神経を使ったり、相手の言動に合わせて話をする必要も無かった。それがとても心地よく、心が浄化されていくような気がした。
 
 
 
< 24 / 28 >

この作品をシェア

pagetop