夜明け前
 ユウスケは苦笑した。
 「今、ちゃんと説明しただろうが。そんな馬鹿なもんじゃないよ」
 「世の中、そんなに甘くないって。援交狩りとかある時代だからな、横から別の男が出て来たりとか、あるかもしれないし」
 「まさか。相手、誰かも分からないし、どこに住んでいるかも知らないのに」
 「いつどこで会うことに発展しないとも限らないだろうが」
 「ありえないよ。会ったりなんか、考えて無いし、お互いに」
 アオキは、メル友では散々な目に遭ったらしく、そういう話には異常なくらいの警戒心を持っているふうだった。ユウスケは、こいつには話さなければよかった、と後悔した。他のやつにあること無いこと言いふらされても面倒なことになる。
 「いや、悪いこと言わないからさ、」
 「ああ、わかった。じゃあ、もう、一切、関わらないことにするワ」
 ユウスケは、その場で番号を消去して見せた。
 何度、消去してもしっかり頭の中に入っている番号だ。何しろ、ついこの前まで一緒に生活していた彼女のケイタイの番号なのだから。
 それから、その話には一切、触れなかった。
 アオキは、ユウスケの様子を見て、安心した様子だった。
 もともとそういうことにはほとんど興味の無いユウスケだということも知っている。
それに、他人のことにそこまで介入する気持ちもなかった。
 ユウスケは、何だか面倒な気持ちになっていた。
 常識とか、世間とか、そういうものに枠組みされた日常に嫌気がさした。
 もしかしたら、自分のやっていることは一般的には理解されにくいものかもしれないし、奇妙なことなのかもしれない。
 でも、それを別に誰かに説明して分かってもらおうとは思わなかった。
 
 
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