夜明け前
佳奈子は、登録している番号以外からの電話は取らないことにしていた。
それでなくても、訳のわからないメールや嫌らしいメールが頻繁に届いてうんざりしていた。最近では、いたずら電話のようなものもかかってきて、留守電に変な内容が入れられていることもあったので気持ち悪くなってケイタイを変えたばかりだった。
友だちから友だちへ勝手にアドレスや番号が流れることがあったので、佳奈子は、必要以上の友人へは新しいアドレスを教えなかった。
だから、この番号を知っている人間は限られているはずだった。
(誰だろう。こんな朝早くから。未来からだったりして)
佳奈子は一瞬、ありえないことを考えて苦笑した。そんなわけ無い。
だけど、電話は何度も何度も鳴り続けた。切れてはまた繋がり、しばらく呼び出し、留守電になっては切れ、また繋がる・・その繰り返し。
10回目を数える頃に、佳奈子は思わず電話を取った。
「もしもし?」
聞き覚えの無い男の声だった。ちょっと不機嫌そうな怒ったような声だった。
「もしもし・・」
「おまえ、いい加減にしろよ」
「えっ、な、なにがですか?」
「何がって、どういうつもりだよ。無視こいてないでさっさと出ろよ」
「あの、あの・・ですね」
佳奈子は状況がつかめなくて、とにかく、こちらの状況を説明しようと思うのだか、相手はそれにはお構いなしにガンガン話に入ってくる。
「なんだよ、その人を小馬鹿にしたような口調は」
「ちょっと、待ってください、どちらさまですか?」