夜明け前
 次の地下鉄に思い切って飛び乗った。
 同じ制服を着ている人も、少なかったけれど、何人か居た。
 どこかで見たことがあるような顔も居た。同じ学年かもしれない。
 それどころか、同じクラスかもしれない。
 興味がなかったのでそんなことはどうでもよかったが、向こうもこっちをちらちら見ているから、そうなのかもしれない。
 時間がずれても、相変わらずぎゅうぎゅうの地下鉄には変わりなかったが、今日はそれほど不快には感じなかった。とにかく、降りたら電話をかけてみようと思った。
 もう、繋がらないかもしれないけれど。
 繋がっても、出ないかもしれないけれど。
 相手が出なくても、それでも構わない気がした。
 何だか知らない別の世界と繋がっているかもしれないというだけで、今までとは違う気がした。地下鉄が駅に着くのが待ち遠しく感じたのは、たぶん、初めてのことだったかもしれない。
 着信履歴が残っている。
 佳奈子は、それを登録して、名前のところに「未来への扉」と書いた。
 ダイヤル。呼び出し。3コール、5コール、7コール・・
 (やっぱり、そりゃ、出ないよね)

 さっきと同じ10コール目で切ろうとしたとき、突然、繋がった。
 「もしもし?」
 明らかに怪訝そうな声だった。
 「ごめんなさい、さっきのわたしです」
 「ああ」
 「ごめんなさい。彼女からかかってきたかと思ってしまいました?」
 「そんなはず、ないでしょう。そこまで頭おかしくないよ」
 男は不機嫌そうだった。
 「それで、なにか用ですか?」
 
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