夜明け前
 「いえ、別に用事は無いんですけど・・」
 「そうでしょうね。じゃあ、なに?」
 「うーん・・」
 佳奈子は、何?と言われて言葉に詰まった。そう聞かれても何かある訳でもない。
 このままだとただの変態女のように思われてしまうかもしれない。
 「あんた、もしかして、俺の状況、おもしろがってる?」
 「違います」
 「じゃあなに? 悪いけど切りますよ」
 「あの、うまく言えないんだけど、あなたはわたしの危機的状況を回避してくれたので、ただ、それが嬉しかったの」
 「はあ?」
 男は、すっとんきょうな声を出した。
 「あ、今、わたしのこと、こいつ頭のおかしな女だと思ったでしょ」
 「いや、全く興味無いんでね」
 「いいんです、興味なんか無くても。でも、本当だから」
 佳奈子は、話しながらだんだん気持ちが華やいでくるのを感じた。
 「だって、わたしはあなたを知らないし、あなたもわたしを知らないんだもの」
 「そうだけど、それがなにか?」
 「だけど、繋がっているってすごいことだなあって」
 「ただ、間違っただけだよ。違うって知っていたらかけなかったし」
 男は面倒くさそうに言った。できれば早く電話を切りたかった。
 「わたしには必要だったから、だからありがとう」
 「いや、お礼を言われてもね、訳わからないし」
 「この電話は未来への扉です、たぶん」
 佳奈子は、かけたくなったときに、またかけます、と言って電話を切った。
 なんだ、これ。
 男は切れた電話を放り投げるとまたベットにごろんと横になった。 

 
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