夜明け前
 男の名前はユウスケ。現在、失業中。
 つい最近まで半同棲していた彼女が居た。ユウスケは、できれば彼女とずっと一緒に居たいと思っていた。そのためなら、どんなことでもするつもりで居た。
 でも、彼女の方は、そう思ってはいなかったようだった。そのことに少しも疑いを持っていなかった。そんな自分が馬鹿馬鹿しく思えて仕方なかった。
 彼女には、いろいろやりたいことがあって、そのためにずっと頑張ってきたのを知っていた。だから、できることは何でも支援してその夢を実現させてやりたいと思っていた。ユウスケにとっては、それが何より大切なことだと思っていた。
 でも、彼女にはそれが重かったようだ。突然、自分の夢も持てないでぷらぷらしているユウスケを毎日見ているのが嫌だと言い出した。
 いや、それは突然ではなかったのかもしれない。ユウスケが気づけずに居たのだ。
 忙しくて時間がすれ違うようになり、会わない時間が増えてきた。
 そしていつの間にかメールさえ来ないようになり、こちらが出しても返事も来ないようになり、気が付いたらケイタイさえ解約されていた。
 女なんて、いつでもそんなもんだ、とユウスケは思った。
 言いたいことがあるのなら、そのときにちゃんと言えばいいのに何も言わない。
 何も言わないまま、ある日突然、忽然と姿を消す。その後は、もう、どうにも何もしようがない。何がどうなっているのか聞くことさえできない。自分の思いを伝えることさえできない。
 そこまで執着していたつもりは無かったが、こんな状況に気づいて初めて、気持ちが傷ついた。その上、訳のわからない変な女に関わることになろうとは全くついてないとしか言いようが無い。
 面倒なことになる前に、自分もケイタイを解約してしまったほうがいいかもしれないなとユウスケはぼんやりと考えた。でも、もしかしたら、彼女がここに連絡してくるかもしれない。今、自分がケイタイを解約してしまったら、もう、彼女との連絡の手段は無い。それもどうなのかなと考えたりもした。
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