夜明け前
 どうして仕事をしないの? と聞かれたことがある。
 どうして、と言われても、別に理由などない。
 真面目に仕事をしていた時期もある。家族のために一生懸命働いていた毎日が嫌だったわけではない。でも、ユウスケにとっての仕事とは、基本的に自分のためにするものではなかった。彼はいつも、自分のためではなく、誰かのために生きていた。
 それがある日、裏切られた。
 気持ちが変わってしまうことが裏切りなのかどうか、ユウスケには時々分からなくなることがある。気持ちは永遠では無いかもしれない。
 どこかで変わってしまったら、それは仕方のないことなのかもしれない。
 気持ちが無いのに偽って一緒に居ることのほうが、もしかしたら裏切りなのかもしれない。だから、それを思えば、誰を責めることもできないのかもしれない。
 妻とうまくいっていないときに彼女と出会った。
 もちろん、最初から男と女の関係だったわけではない。
 ただ、一緒に居て話をするだけで心が浄化された。
 それだけでよかった。また、深い関係になって、やがて、気持ちが離れていくことのほうが怖かった。それより、ただ人として出会って、なんでもないただの友人としてずっと一緒に居ることのほうが大切なような気がした。
 何かに一生懸命になることもできなくなっていた。
 将来のことを考えるより、今を大事にして、今を精一杯生きればいいと考えるようになった。だから、定職には付かず、そのときそのときにできる仕事をしていた。
 お金が無いときは全く無く、あるときはあるだけ使った。
 それでも、一人身のユウスケは特には困らなかった。
 仕事をするのが当たり前だった彼女にとっては、それは理解できないことだったかもしれない。ただ、なんとなく友人として付き合っているときには、それも生き方だと気にならないかもしれないが、いざ一緒に生活するようになれば不安にもなるだろう。
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