スノー*フェイク
胡桃坂さんはルージュでかたどられた唇をギリッと噛んで、マイクを投げ捨てた。
ガキィィィン、とスピーカーを通じてノイズが響き渡る。
そんなことにはお構い無しの表情で、胡桃坂さんが叫んだ。
「婚約は解消しませんっ!!!!」
ぴたりと、蕪城先生が止まった。
あたしには後ろ姿しか見えないけど、どこか冷たいオーラが見えた気がした。
「へぇ。良いのか?こんな俺で」
「っ、…服装など、どうとでもなります。美葛さんのその生まれ持った美しささえあれば、装飾品などわたくしが与えます」
胡桃坂さんは形勢逆転とばかりに笑みを浮かべ、側にいた執事にマイクを持ってこさせた。
また、スピーカーに小さくノイズが走る。
「美葛さん。あなたにはわたくしの家で住んでいただきます。そうすればあなたもいずれ、わたくしと同じ生活に慣れますわ。教職もどうぞお辞めになって。様々な作法を学び、胡桃坂家に相応しい殿方になってくださいね」
端から見てもわかるくらいマイクを強く握り締め、胡桃坂さんはぺろりと唇を舐めた。
ハラハラとしながら、あたしたちが見守る中。
「……未来のビジョンまで出来上がってんのか、流石だな」
そう、静かに呟いた蕪城先生の声は。
胡桃坂さんを嘲るように、確かに笑っていた。