スノー*フェイク
「な、なにが……なにがおかしいの!!!」
怒りを剥き出しにした胡桃坂さんの声が、マイクを通る。
あまりにも高音すぎるのか、所々声が聞き取りにくい。
ふと辺りを見渡すと、いつの間にか華苗と繭がいなかった。
『っ、華苗!?繭!?』
呼んでも、返事は返ってこない。
捜しに行きたい衝動に駈られながらも、あたしはこの場を動くことができなかった。
「…いや、悪ぃ悪ぃ。あまりにも盲目的なお前がおかしくてな」
蕪城先生は肩を震わせながら笑うと、ステージに続く階段に足を掛けた。
コツン、コツン。
木製の階段から、音が鳴る。
「盲目的、ですって…?」
「ああ、まさにお前にぴったりな言葉だろ。上辺だけの俺に惚れて、素顔には気付きもしない。やれ美しいやれカッコいいと俺をもてはやし、自分の見えているものしか信じない。自分が好きになったものは絶対的に大丈夫だと、疑うことすらしない。…こーんな近くに、不純物がいたのになァ」
それを言い終わる頃には、蕪城先生はステージの上に立っていた。
転がっていたマイクをひょいと拾い上げ、胡桃坂さんに向き合う。
びくりと肩を揺らしたのを見計らったように、蕪城先生は言った。
「俺が欲しけりゃ、素顔にまで惚れてみやがれ」
にやりと口角を吊り上げ、蕪城先生はきっぱりと言い放った。
『蕪城、先生…』
マイクのハウリングが聞こえないくらい、あたしは先生に見惚れた。