スノー*フェイク
「では、授業を始めます」
甘い響く低音が、耳朶に残った。
授業の時だけ掛けるメタリックフレームのお洒落なメガネが、また蕪城先生によく似合っている。
『(………って!!)』
いくら授業がわかんないからって、蕪城先生の観察しなくても!
自分を叱咤し、こほんと小さく咳払いをした。
……別に、教え方が悪いとは思ってない。
ただ、進度があまりにも早すぎて理解する前に黒板が消されてしまう。
なんでも噂によると、蕪城先生は某大学で数学の博士号を持っているらしい。
確かに賢そうだけど……顔も良い頭も良い、性格も良いって……
『(…マンガじゃないんだから)』
冷めたツッコミを心中でしながら、早く授業が終われと念じ続けた。
これが今日で最後の授業だ、帰ったらすぐにコンビニのアルバイト行かなきゃ…。
『(今日は深夜まで、だっけ…)』
てことは寝るの2時過ぎか、今日も睡眠不足になりそうだなぁ…。
『(……バレないように、寝ちゃえ!)』
数学の授業を放棄したあたしは、教科書で顔を隠しながらこっそりと眠りに付いた。