スノー*フェイク
「………まぁ、初めはな。一緒に食事しろとか可愛い要求だったんだよ」
油断してた。
だから、手遅れになった。
溜息混じりに吐き出された言葉は、煙のように空気に溶けて消えた。
……なんだか、酸素が苦い。
「つまるところ…バカなんだ、俺が。度数の強い酒を知らず知らず飲まされて、……目覚めた時には事が済んでた。俺は酔うと、キス魔ならぬヤり魔になることがそこで判明したんだよ」
はははっ。
乾いた笑い声が、張り詰めた空気を引き裂いた。
ぴしり、と。
氷が割れるような音を立てながら、なにかが崩れていく。
「そんで、一度覚えた快楽を手放せなくなったらしい。以後、会う度にそういうことをするようになった。………汚ぇよな、俺」
自身の掌を静かに見詰めて、蕪城先生が笑った。
……いや、笑ってなんかない。
泣いてる、みたいだ。
『……蕪城先生、泣かないでください』
絞り出した声は、恥ずかしいことに震えていた。
蕪城先生にそれを悟られたくなくて、二言目は無駄に声を張り上げた。