この声が枯れるまで
『ただいま~』
靴を脱ぎ捨て、リビングに行く。
リビングにはママがいた。
『おかえりなさい』
ママは私の顔を見るとこう言って、掃除の続きをする。
『ママ~パパは?』
リビングにはママの姿しかない。
楓はまだ学校なのだろう。
じゃあパパは?
『百合は本当にパパが好きね?パパなら今日仕事お休みだから、書斎にいるわよ?』
『はいは~い』
私はパパのいる書斎に向かった。
軽くノックをしてパパの返事を待つ。
『はい?』
中から大好きなパパの声が聞こえた。
『パパ?百合だけど入っていい?』
『どうぞ?』
パパに了承を得て部屋に入った。
そして今日の出来事を楽しそうに話す。
『百合ね、1の2になったの!!真ん中の列の前から4番目の席でね』
その言葉を言った時、
パパが持っていたペンの動きが止まった。
『…それで?』
そして何事もなかったように再びペンを動かしていく。
私はなにも見なかったかかのように、会話の続きをする。
『あっうん。それで…
後ろの子と友達になっちゃったの!!でも隣のヤツがウザいんだ~!!もう嫌だ』
『仕方ないよ。頑張りな?』
パパは背中を向けているが、きっと微笑んでいるに違いない。
『うん、それでね!!今日、ある人に話しかけられたの!斉藤タクミ君って言ってね、その子、パパの友達の息子らしいんだ!知ってる?』
『…斉藤…歩の事かな?確か、息子いるし。百合と同じ歳だった気がするよ?』
『やっぱり合ってたんだ!!』
『…そのタクミ君に何か聞いたりしたか?』
『え?何も…?』
『そっか…じゃあ何にもだよ』
いきなり何を言われるかと思ったら…
またパパへの不信を抱く。
どうしてそんなことを聞いたの?