この声が枯れるまで
目の前には、あの人が立っていた。
『あなたは…誰?』
『…聞かない方がいいわ』
その人は、私に笑顔を見せた。
屈託のない眩しい笑顔を。
『何故…いつも私の夢はここになるのかな?』
上を見ながら質問をする私。
上には空などなかった。ただ…白いだけ。
『…私が導いているから』
小さな声で言う彼女。
『あな…たが?』
『あなたに…伝えたい事があるの…でも今は言えない…』
伝えたいこと?
伝えたいことがあるから私を導いている?
でも、何故?
『何故?』
『…あなた今幸せ?』
『幸せです。パパもママも楓もいるし、友達だっているから』
『ならいいの。…パパをずっと好きでいてあげてね?』
『パパを?』
『そう…パパを』
そう言うと、彼女は私の前から、ふっと消えていった。
私はゆっくりと目を開ける。
目を開けると、電気の光が眩しかった。
するとドアの向こう側から『百合ーお風呂入りなさい』とママの声が聞こえてきた。
また夢を見てしまった。彼女は一体何者なのだろう?
『はぁ~い…変な夢…』
私はママに言われた通り、お風呂場に向かう。
白い入浴剤が入った湯船につかり、あの夢のことを思い出す。
何だったのだろう。
何であの女の子は、
パパの事を言ったのかな…
パパの知り合いの子かな…
私は、この夢の事についてあまり深く考えなかった。
でもあの女の子は、
大事な事を教えてくれたんだ。