この声が枯れるまで
…朝ふと起きて、小鳥が鳴く声を聞きながら、私は洗面所へと歩いた。
水道から出る水が、ゆっくりとコップに貯まっていくと同じように、私から出る恋が、ゆっくりと、あなたへと貯まっていく。
いつかそのコップは、
水でいっぱいになる。
私の恋もいつか
あなたでいっぱいになる。
水道から出る水を見ながら、こう私は思った。
『…百合何やってんだ?』
誰かの声に驚き、私は急いで水をとめる。
鏡に写ったのは、パパだった。
『パパ…』
『何だ?そんな顔して』
パパは鏡に写る私を見ながら笑う。
『うっううん…別に…』
『そうか?』
『うん…』
『ならいいんだ。百合、何か考え事してるみたいだったから』
さすがパパ。
まるで私の心が読めるよう。
私は白いタオルを濡れた顔に軽くあてる。
『全然!パパ起きるの早いね、仕事?』
『あぁ…会社から呼ばれてね』
パパはネクタイを締めて、嫌そうな表情をする。
『そっか…頑張ってね!!』
『ありがとな。じゃあ行くな』
『いってらっしゃい』
パパは靴べらを使い、
靴を履き、ゆっくりとドアを開けた。
少しだけ差した、朝の太陽の光が眩しくて、目を細めた。
そしてその光が小さくなっていくうちに、私の目は元に戻る。
もうそこに光はなかった。