この声が枯れるまで

私は言われるがままに、彼女が指さす方向へと、顔を向けた。



『この世界はね、大好きなモノしか写らないの…』


『大好きな…モノ?』


『そうよ、今あなたが見てるモノは、私の大好きなモノ。…誰か分かる?』


彼女の大好きなモノとは、たくさんの男の人の笑顔。
どこかで見たことのある笑顔だ。



『素敵な…笑顔ですね』


『そうでしょ?私の大好きなモノだもの。でも…もう会えない…』



『会えないって?』



私は彼女の言葉に疑問を持つ。
どういうことなのか…
分からなかった。

『私はこの人を置いていってしまったから。この人を悲しい思いにさせてしまったから…』


私は何かを思い出した。ズキンズキンと唸る私の頭の中から、ひとつだけ思い出されたこと。


『…これ…パパの笑顔だ…』


彼女の大好きなモノは、パパの笑顔だ。


『…小林…百合さん?』


『…初めまして…百合ちゃん…』



この人が小林百合。
パパの愛していた人。

そして、私の名前の由来の人。




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