君だけしか映らない
それから何ヵ月か経って学校にもだいぶ慣れてきたある日。


トイレに行って教室に戻ろうと廊下を歩いていた時だった。



「えーっと、あの!佐伯くん!!」


突然名前を呼ばれて振り返ってみた。


「…………何?」



そこには両手いっぱいに資料を持った女子が一人立っていた。資料で顔が半分しか見えず、どこかヨロヨロとしている。



「あの、教室まで行くんだよね?これ一緒に持っていってくれない?」



「……は?なんでオレが」

返事もしてないのに、その女子は図々しくも自分の資料の半分をオレに渡して来た。そして、やっと顔が見えた。


(こいつって確か、うちのクラスの委員長だよな?)


「いいじゃない。どうせ教室行くんだし。それに男の子なんだからこれくらい軽いでしょ?」


そう言って委員長は歩き出す。



「ちょ…!!待てよっ!」



なんなんだ、この女。オレに話しかけてきたと思えば資料持てだと!?



「おいっ。もう一人の委員長は?」



「あぁ、彼なら今日風邪で休みだって。朝先生が言ってたじゃない。」


委員長は笑顔で答える。


「…てか、これ何なの?」


「なんか次の授業で使う資料だって。先生に教室まで持って行ってくれって言われたんだけど、思いの外重くて。でも、佐伯くんがたまたま通りかかってくれて助かったよ。」



「……オレ、運ぶなんて一言も言ってないんだけど」

「もう。男なんだからつべこべ言わないの!」



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