君だけしか映らない
「…これ、いつもと違うじゃん」



買ってきたパンを見て佐伯悠哉が呟く。



「…だから購買が混んでて売り切れちゃったの!」



「でもいつもはちゃんと買えるじゃん。」



(…そんな…町田さんと話してて買えなかったなんて言えないよ…。)




「もう…!そんなこと言うなら自分で買いに行きなよ!私だって…好きでこんなことやってるんじゃないわよ!」



何だかすごいイライラする。別に今に始まったことじゃないけど、さっき町田さんに言われたことが頭の中で鮮明に思い出される。




『…本当に好きな子には普通、こんなことさせないよね?』



その通りだ。


好きな子にはこんなことさせる訳がない。



佐伯悠哉が私を好きになるなんてあり得ないし、そのことは別に問題じゃない。


最初から好きかどうかの期待なんてしてないから。



問題は、人の気持ちを無視してるってこと。私が嫌がってもパシリの関係をやめようとしない。



嫌いな相手の気持ちなんてどうでもいいってことか…



確かに最近は逆らうことが面倒になって黙って従ってきたけど、やっぱこのままじゃ絶対よくない。




「用は済んだし、私は教室に戻るから。」



素っ気なく話し、笑美はその場を去ろうとした。



「ちょっと待て!」



その瞬間、いきなり手を掴まれた。




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