君だけしか映らない
もう何を言っても無駄なことは、今日学校から一緒に帰ってきてよくわかった。

笑美は腕を引っ張られたまま無言で歩いた。



「お前のうちってこっちか?」


「え…?うん…。」


(なんで私の家に…?)


そう思っても言葉には出さず黙って歩く。



「明日さ…お菓子作ってこいって言ったけど、やっぱいいや。」


「…どうして?」


「さっきパフェとモンブラン食ったし。それに…」


そう言って佐伯悠哉は笑美の顔を見る。


「お前バイトで疲れてるだろ?」


その声はとても穏やかで優しく、笑美の心にスッと染み込んできた。



「なんで…そんなこと言うの?」


「え?それとも作る気マンマンだった?」


佐伯悠哉が困った顔で聞き返す。


「違う…!そうじゃなくて…!」


笑美は声を絞り出すように呟いた。



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