ショコラ番外編~小さな恋の終わり~
彼が遠くを見るように視線を流す。
陽が西に傾いてきて、輝かしい光は徐々に影を為す。
「俺は3年前、亜紀さんを振った。
いつか婚約者のもとに帰るんじゃないかと、怯えて生きるのが怖くて。
だけど、本当は勇気を出せばよかった。
失いたくないって、4年待って欲しいと、素直に言えば良かったんだ」
「……」
「亜紀さんにも、そう言われた。あの時だったら待ったって。
だけど、今は。……旦那さんを愛してるって、そう言われた」
「そう、ですか」
「……すっきりしたよ」
じっと顔を見ると、彼は少し涙目で。
でも、どこか清々しさがあった。
どこか不貞腐れているような、人を小馬鹿にしたような、あの表情は影を潜め、
3年前の面影さえ見せてここにいる。
そう。今、ここにいるんだ。
好きな人が。
このままここで別れたら。
私は彼の、何の記憶にも残らないだろう。
今まで通り、ただの傍観者として。
彼の中に一筋の影さえ残さずに消えて行く。