“未来”
*2*
窓側の席にたたんで置いてある、黒いカーディガンのポケットから、チョコレート一粒とビニール袋を取り出す。
このコンパートメントは4人用なのだが、幸いなことに空席は他に十分あるみたいだ。チョコレートの包み紙を取って、それをビニール袋に入れる。
袋には、法律で定められている『土に返りますよ』というマークがついている。
「峻(しゅん)、グラスゴーまでどれくらいかかるって言ってた?」
眠そうに座席で身を丸めている透(とおる)が、ふと顔をおこして聞く。
「僕、もう酔いそうなんだけど」
「2時間ちょっとだってブラウン先生は言ってたぜ。酔い止めの薬なら俺も持ってるけど」
僕も持ってるから大丈夫と言って、要は再び顔をうずめる。
「……いい薬、やるよ」
自分で食べるつもりだったが、俺は指先でつまんでいたチョコレートを透に差し出した。
同い年だと言うのに、顔も性格も女みたいな透はどこかひ弱で、弟を持ったみたいな気分になる。俺には兄弟がいないから、よくわからないけど。
ありがとうと言って、透はチョコレートを受け取って口にいれる。
「それにしても、なんで修学旅行にグラスゴーなんだろう」
再び目を閉じて、透がグチをこぼす。
「やっぱ校風だろうな」
芸術のロンドンより、経済のグラスゴーか。いかにもチューリヒインターナショナルスクールの修学旅行って感じだ。
ただ、外に出ない分音楽や絵が好きな透で無くても、多くの生徒はうんざりだろうけど。
このコンパートメントは4人用なのだが、幸いなことに空席は他に十分あるみたいだ。チョコレートの包み紙を取って、それをビニール袋に入れる。
袋には、法律で定められている『土に返りますよ』というマークがついている。
「峻(しゅん)、グラスゴーまでどれくらいかかるって言ってた?」
眠そうに座席で身を丸めている透(とおる)が、ふと顔をおこして聞く。
「僕、もう酔いそうなんだけど」
「2時間ちょっとだってブラウン先生は言ってたぜ。酔い止めの薬なら俺も持ってるけど」
僕も持ってるから大丈夫と言って、要は再び顔をうずめる。
「……いい薬、やるよ」
自分で食べるつもりだったが、俺は指先でつまんでいたチョコレートを透に差し出した。
同い年だと言うのに、顔も性格も女みたいな透はどこかひ弱で、弟を持ったみたいな気分になる。俺には兄弟がいないから、よくわからないけど。
ありがとうと言って、透はチョコレートを受け取って口にいれる。
「それにしても、なんで修学旅行にグラスゴーなんだろう」
再び目を閉じて、透がグチをこぼす。
「やっぱ校風だろうな」
芸術のロンドンより、経済のグラスゴーか。いかにもチューリヒインターナショナルスクールの修学旅行って感じだ。
ただ、外に出ない分音楽や絵が好きな透で無くても、多くの生徒はうんざりだろうけど。