低温の哀で君を壊す
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―――…



カチカチ、時計の音とカッターの刃を出し入れする無機質な音だけが耳につく部屋は空っぽだった。


まるで俺の頭と心ん中みたい。


ぐっすり寝ている奏を見て空っぽの中にあるものはこの通りお前だけなんだな、とあの頃から変わらない寝顔を見てほっとした。


ベッドから投げ出す足で立ち上がりそこら中に散らばってた服を拾い上げる。


奏は知らない。


今も俺のポケットにはあの時血を浴びたカッターがあることを。


こんな物が無くたって今だったら力で奏を守ることはできる。


でも、このカッターは人を傷付け奏を守った事実と俺の誓いがこもってる。


お守りにも似たカッターは静寂の中で鈍色を光らせた。


手にした奏の制服は俺が二年前まで着てた制服と同じ柄。奏はバカだね。これと違うのを着ようとしてたなんて。俺から離れようとしたなんて…できる訳ないだろ?





「……愛してる」



寝顔に言ったって返事が返ってこないのは分かっていた。


俺がこの言葉を口にすると奏はひどく泣きそうな顔で俺を見るのも、触れる手が震えていることも分かっていて言うんだ。



―――…俺は奏を愛している。
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