低温の哀で君を壊す
人間不信とはまた違う。最初から信じる気がない。どうでもいい。それすらも放棄してしまった俺にとって信じられる者も一番も奏だけだった。俺の小さな全て。
「にーに、ブランコ乗りたい」
「うん。いいよ。でもちゃんと掴まってなきゃ落っこちるから手、はなすなよ?」
「うんっ!!」
薄暗い空の下。みんな、帰る場所があって待ってる人がいる。
俺たちは家に帰ったって誰もいないから、気が済むまで遊ぶにはうってつけの場所。
俺と奏しかいない広い公園。どれもこれも遊具を全部独り占め。
元気のいい返事と共に公園の砂場からブランコが揺れる場所へまで駆けていく小さな後ろ姿にそんなに走って転ぶなよ、と見つめながら後を追う。
「っきゃ」
あ…、小さな悲鳴に突発的に伸ばした手。
それも虚しく案の定奏は目の前で派手に転んだ。急いで駆け寄って奏を起き上がらせ泣くのを我慢してる唇から漏れる声だけを拾おうと耳を澄ませる。
「痛いよぉ…にーに」
擦れる膝からは血が滲んでいた。見てるだけで痛々しい。奏の体に傷がついた。俺は顔をしかめながら「泣かなくていい子だね」と頭をくしゃくしゃっと撫でてやる。
「ちょっと待ってて」
「っ…やだ!行かないで…」
「これ、水にぬらしてくるだけだから」
不安そうに大きな瞳が俺を見つめた。ぽん、頭に手を置いてポケットに入っていたハンカチをぬらそうと少し離れたとこにあるトイレへと走る。
ここの公園は広いから隅にぽつんとあるトイレまではちょっとした距離があって、でも少しくらいなら目を離したって平気だろう。という安易な考えが運命の別れ道。
この日のことは今も忘れられない俺の古傷。