低温の哀で君を壊す







「っやあ、助けて!!にーに!!」



聞こえた叫び声に俺は心臓が止まるかと思った。頭よりも先に体が動くってきっとこういうこと。


奏が、俺を呼んでる。





「奏ーっ!!」



目にうつる光景に全身を流れてる血が活発になるのが分かった。拳を握りしめ全速力で走る。


誰だよ、あの、オッサンは…!!


泣きながら嫌がる奏の腕を引っ張る姿はどう見たって奏をどこかに連れ去るつもりだ。誘拐…?そんなのさせてたまるか…っ




「て、め…奏に触んな!!」



怒りとかそんなものを飛び越えた感情がドロドロと流れて心臓が唸る。


こんなに感情を露わにしたことは多分今までなかった。俺は感情を殺すのなんか得意でどんな時だって冷静でいたつもりだ。


でも今は、




「殺してやる…っ!!」



左ポケットに眠るカッターの刃がギラリと鈍く光る。誰も俺たちを守ってはくれない。これは正当防衛だ。誰も守ってはくれないから俺が守る。自分の身も、奏も。


そうやって、いつからかポケットに忍ばせていたカッターがまさかこんな形で他人に向けるとは予想もしていなかったけど




「っ…に、にーに」



ひっ、と息を飲み込んで後退りするオッサンの息の根を本気で止めてやろうと思った。


本気で殺したいと思った。


俺の大切なものを傷付ける奴は、許さない。




「っ、うわあああ…っ!!」



奏の張り上げた声に一瞬の正気を戻して、直視する。


…あ、あ、


俺…




「っ…かな、で」



震える手で奏の手を掴み公園から走り出した。今すぐここから消えたくて真っ白になる思考とは反対に確かな感触だけが指先には残っている。気持ち悪い。情けない。


肉を引き裂くリアルな感覚に赤黒い血。


ムカついて苛々して殺してやりたくて…、


気付いたらオッサンの右腕の肉はぱっくり切れてそこからは今まで見たことのない量の血が流れていた。


その血
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