低温の哀で君を壊す
汚れちゃったね、俺も奏も
「一人にしてごめん…っ。怖かったよな?奏、大丈夫だよ。にーにがずっとそばにいる」
「っ、ぁ…わぁぁぁ!!に、にー」
血がついたままの手で奏の頬を撫でる。
よしよし。ごめんね。大丈夫。ずっと、そうやって宥めながら落ち着いてきた奏の小指に自分の小指をそっと絡ませた。
ぐしゃぐしゃな顔は涙の跡と濡れるまつげが下を向く。
「もう絶対一人にしないから…俺が奏を何からでも守ってやる。な、指切り」
交わされた指切りは薄っぺらい約束。
あのまま、奏が連れ去られていたら…
考えただけで恐ろしい。血の気が引く。
背筋が凍るなんてそんな表現が正にソレ。
俺の震えなのか、それとも奏の震えなのか。どちらのともいえる振動ごと抱き締めて、はっと息を止めた。
赤黒い液体がこびりつく手を見て急に少しだけ怖くなる。
あれだけ血が出たってきっと死にはしない。けど、また奏が狙われたら俺は、どうすればいい?本当にひとりぼっち。誰もいない。そんなの嫌だ…っ!!奏だけなんだ。俺のそばにずっと居てくれるのは。他なんていらないんだよ。
鮮明に蘇る生々しさが消えなくて思いきり目を瞑る。
俺はあんなことをしておいて後悔するどころか寧ろ、あのオッサンを中途半端にしてしまったことに後悔した。だいぶ深手を負ったけど奏の感じたものはそれ以上。全然足りない。もっと苦しめばいいんだ。
俺から奏を奪うのなら、いくらでも汚れてあげる。
「――…奏は…誰にも渡さない」
俺の全ては奏でいいよ。好きなんて一言じゃ安っぽくて伝えきれないけどこの気持ちは一生奏だけに抱く。