恋愛温度、上昇中!


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「ハァ」
今日何度目の溜め息だろう。もう何だか面倒くさいな。

定時を迎えて、残業もせずに帰る。今日考えられない事はいくら探したって答えなんて出ないもの。

セキュリティの甘い築25年鉄筋コンクリート五階建てのマンションは会社へ歩いて行ける距離にあって、勿論立地で選んだ。エレベーターなんて素敵な物はついてない。三階の角部屋まで重たい体を引きずって歩く。もう少し、もう少しで私の城が見える。
鞄の内ポケットに潜む装飾のない鍵を握りしてめてモスグリーンの扉をギィと開ければ、玄関に置いたアロマの匂いがフワリと鼻をくすぐった。

ーーー疲れた!

ドサリと鞄を投げ出して、操り人形のように膝をつけば、一度大きく息を吸う。はぁぁと吐き出して、そのままソファにゆっくり移動した。
ひっつめられた髪を解いて、眼鏡を外す。眉間を軽く揉んだら窮屈なオフィススタイルをうりゃと脱ぎ捨てた。
ソファに掛けてある量販店産のステテコもどきを履けば、やっと体の力が抜けていく。
完璧主義者で、鉄仮面、アダ名は多分『眼鏡』の『高見沙織』はもういない。
一日に心地良い疲れを感じる?なにそれ二次元?疲れた!疲れた!疲れた!ビールが欲しい、キンキンに冷えた滑らかな泡立ち。黄金の輝きを美味しいと思えるようになったらもう立派な大人だ。そう、大人!無意識にヘラリと笑ってしまってだらけた自分の顔が対角線にある鏡に映った。
見るに耐えない、いいじゃないか社会人だもの。税金だってちゃんと納めてる。

ソファから雪崩のように体を崩してそのままゴロゴロと転がった。

会社では全く見せない私の現実。正直、女として枯れてきている。



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