少年少女リアル
 傘を開くとすぐに雨が表面を打ち始めた。

蝉時雨の次は、秋雨か。
いつまで続くのやら。
自然は意外と喧しいものだ。

傘を被り、足を進めると、靴が泥をじゃりりと音を立てて踏みつけた。
音がやけに響く。


『あ……』


何だよ。
なぜ、僕が。


さらにじゃりりと一歩踏み鳴らすと、足がそこへ留まったまま、動かなくなってしまった。

雨のリズムが遅くなっていく。
全く。こめかみが痛い。


どうして、僕が。


舌打ちを漏らし、僕はイライラと踵を返した。


「え……?」

「入る?」

眉間に寄った皺が元へ戻らない。
ただオロオロする彼女を見下ろす僕は、とても親切なんかじゃない。

「で、でも……」

むしろ、苛立ちだ。

「そんなの、悪いよ」

「どっち」

そんな事はどうだっていい。

僕の隣りに収まると、彼女は「ありがとう」と困ったように微笑んだ。
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