少年少女リアル
 佳月は歩くのが速い。
せっかちなのか、足が長いからなのか、わからないが、背丈のある僕でも速いと感じるくらいなのだから、きっと普通より速いのだと思う。

一方、向井さんは歩くのが遅い。
普段佳月と一緒にいるせいで、僕の基準が狂ってしまったのか。
慣れない歩幅――しかも合わせなければいけない――に、イライラが募る。
「歩く」というだけの行為にこんなにも気を配ったのは、初めてかもしれない。

「前夜祭、残念だったね。中止になって」

「そうだね」

僕は出ないけど、と心の中で加える。

「明日は、晴れるといいね」

「そうだね」

「……」

彼女の鞄が僕等を隔てていたので、僕の右肩は傘に収まりきらず、すでに鞄ごとびしょ濡れになっていた。
こうまでになると、もう傘を被っている意味などあまりないかもしれない。

いつだって、損をするのは神経の細い者なのだ。

「お客さん、いっぱい来てくれたらいいなぁ」

「そうだね」

「……」

カッターシャツごと濡れて、右側が気持ち悪い。神経がそれにばかり集中する。

「あいうえお」

「……は?」

不可解な発言に、つい足が止まる。
振り向くと、彼女は我慢していたかのように、ふっと笑った。

「……ちゃんと聞いてるのかな、って思って」

「失礼な。聞いてるよ」

「さっきから、そうだね、しか言わないんだもん」

彼女に傘を被せる。
横に並ぶと、また、亀か蝸牛のような速さで僕等は歩き始めた。

「そんなことないよ」

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