少年少女リアル
 しばらく経ってから、夏目さんは一息吐いて、首を左右に振った。

「分からない」

「夏目さんにも分からない事があるんだ」

「私の事、何者だと思ってたの?」

そう聞かれても、答えようがない。
高校生の皮を被っているけれど、本当は年齢を偽装していて、他人の思考を読める銀河系の外から来た宇宙人。そんな身の上だとでも答えようか。

何というタイトルのSF小説か、と小馬鹿にされそうだ。

「分からないと言うより、答えられないって言うべきかしら」

「ノーコメントって事?」

夏目さんは、直接言えないようなほど、僕にひどい印象を持っているのだろうか。
そんな事を考え終えないうちに、ぴしゃりと「違う」と否定されてしまった。

「私が知ってるのなんて、曾根君のほんの一部でしかないでしょ」

「そうだね」

確かに、図書室以外でほとんど話す事はない。学校を出れば尚更だ。
僕が図書委員にならなければ、夏目さんが図書委員にならなければ、隣りのクラスじゃなければ、僕等が一言でも話す機会すらなかったかもしれない。

それほど、僕と夏目さんの接点は薄い。


「私が今まで見てきた部分を元に、私の中での曾根君っていうキャラクターが作られていて、でも、それは私の中の曾根君でしかない。実物の貴方とは違う」

「まぁ、そうだけど」

「何ていう名前か知らないけど、いつも一緒にいる、あの眼鏡の、」

「佳月の事?」

「その人と私が思っている曾根君って、多分全然違うと思う」

その目で見た切れ端を、継ぎ接ぎで全部繋ぎ合わせてできた曾根千暁という人物像。
自分の中で皆それぞれ他人を思い描いているだけでしかない、という事だろうか。

だとしたら、僕から見た夏目さんはまだ謎が多くて、あまりに不完全だ。
継ぎ接ぎの間から所々ブラックホールが垣間見えるほど。

「だから、曾根君らしいって感じる行動は、人によって微妙に違ってくるはず」

「……なるほど。そうだな」

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