少年少女リアル
 ホームルームを潰して、文化祭の出し物を決めるらしい。
夏目さんも言っていたけれど、もうそんな時期か。

この時間はどのクラスも同じ内容を話し合っているのだろう。
いつもと違って廊下から賑やかな声が聞こえてくる。

文化祭が嫌いなわけじゃない。
この学校の文化祭はそれなりに力を入れていて、面白いとは思う。

けれども、どうしてもホームルームに耳を傾ける事ができない。
と言うよりも、僕は前を直視する事ができなかった。

教壇には、文化祭委員のうちの一人として向井さんが立っているからだ。

避けていないと言えば嘘になる。

彼女が視界に映るのが怖い。
蘇る記憶がまだ鮮明なのだ。


「千暁はどう思う?」

余所見を続けていると、急に質問をぶつけられた。
佳月は僕が聞いていないのを悟って、「劇か飲食」と手短すぎる説明を加えた。

出し物の話か。
何となく、劇は面倒臭いな、と思った。

「隣りのクラスも多分劇だって」

「へー。被るじゃん」

教壇の近くで女子が固まり、何やら盛り上がっている。
視線をやると、一人の女子生徒が丸い文字で「執事喫茶」と黒板に書いた。

「でも執事喫茶は嫌だな。誰だよ、案出した奴」

佳月は愚痴を零しながらも、目元に皺を寄せて笑っている。

ふと、向井さんと目が合い、慌てて、逸らす。
まずったな、と思った。
だから、前を見たくなかった。

教室の後方に追いやられた男子生徒達は、罵声を浴びせながらも笑っていた。
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