少年少女リアル
 結局、文化祭の出し物は決まらなかった。
執事喫茶の案が出てから、女子がすっかり盛り上がり、締まりがないまま終わってしまった。
このままだと、本当に執事喫茶になりそうだ。

正直、出し物なんて何だっていい。成績には関係ないのだから。


「曾根君!」

僕よりも先に、隣りを歩いていた佳月の方が早く振り向いた。
眼鏡の下から鋭い眼光が声の主を捉えている。


僕は思わず声を呑んだ。
向井さんだ。


駆け寄ってくる彼女を見て、緊張が走る。
さっき目を逸らした事が、そんなに気に食わなかったのだろうか。
一体何を言われるのか、恐怖心すら覚える。


「これ」

と、差し出されたのは、一冊のノートだった。
表紙には「曾根千暁」と書かれている。先日提出した、僕のノートだ。

「教壇の中に入ってたよ」

見つけて、持って来てくれたのか。
肝を潰した自分が、何だか馬鹿馬鹿しい。

ノートを受け取り、「ありがとう」と笑顔を作る。

それから、慌てているのが悟られないよう、踵を返した。
一刻も早くこの場から去りたいのが本音だった。


普通、だったと思う。
動揺を隠した僕の精一杯の装いは。

佳月の方を一瞥すると、ちょうど目が合った。
一瞬ひやりとしたけれど、佳月は何事もなかったかのように昨夜のテレビ番組の話を再開した。
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