少年少女リアル
「曾根、遅刻か?」
すみません、と謝る隙もなく、僕の顔を見た途端、担任の教師は目を丸めた。珍しいな、と呟き、出席簿に印を書く。
いつもと同じ教室、いつもと同じ光景、話し声、空気。
いつもと違うのは、目のやり場、か。
一人の女を避けようとする。不自然な、自分。
席に着くと、何気ないホームルームがすでに再開されていた。
非日常の中にいるのは、まるで僕だけみたいで、世界は「いつも通り」だ。
僕だけが、おかしい。
顔を上げただけで、視界に入ってしまう彼女の肩を呪った。
この席からいつも彼女が見えていた事に、今初めて気が付いたのだ。
生憎、この角度からでは表情は分からない。
彼女が泣きそうな顔かどうかも、怒った顔かどうかも。
柔らかい黒髪が肩に流れ、隙間から白い首筋が見える。
髪の感触。首筋の熱。
まだ身体に残る感覚に、ゾクリとした。
欲情しそうになった自分が、おぞましいほど怖くなった。