少年少女リアル
「曾根、そっち大丈夫か?」
看板と手摺の間から、苦しそうな男が顔を覗かせる。
眉間に皺を寄せた佳月の代わりに、引っ張り出された武村だ。
「辛うじて」
二人どころか、少なくとも四人は必要だったと思う。
看板は想像していたよりも重い上に、丈がある。
廊下はともかく、狭い階段を運ぶのは危険だった。バランスの問題で。
ハンドボール部の武村でも額は汗だらけ、顔を皺くちゃに歪めている。こんな有り様だ。
痩せ身の僕にはきつすぎる労働だった。酷使と言うべきかもしれない。
佳月はこの事を知っていたから嫌がったのか。薄情だ。
階段を上りきった所で、一旦休憩すると、滲み出た汗がぽたぽたと床に落ちていった。
透明の雫が、人工的な青白い床へ模様を作る。雫が落ちたところで、床は人工的なままだ。
また一滴汗が落ちると、円形だった雫は歪な形になってしまった。
「俺、くたばりそう」
先に弱音を吐いたのは、武村だった。息絶え絶えにそう言う姿は、本当にくたばりそうだ。
二人の息切れが階段に響く。
「同じく」
僕がぽつりとそう言うと、武村は何か楽しんでいるように、歯を見せて笑った。
「教室までもうちょっとだ。行こうぜ」
ジャージを捲ると、筋骨隆々とした腕が露になる。もちろん、僕のじゃない。
倣って僕も立ち上がる。壁に凭れさせてあった看板を持ち直すと、さっきより一段と重くなったように感じた。