少年少女リアル
 向井さんは珍しいものでも見るように、目を丸くした。

「どうしたの?」

「手伝え、だって」

看板はまだ木の下地が覆われただけの段階で、一面真っ白だ。彼女にしてみれば、「やっと」この段階まで来たのかもしれないけれど。

「何すればいい?」

屈むと、真っ白に見えた看板に消えそうなほど薄い下書きの線が描かれているのが分かった。

向井さんは困ったような顔をしている。
ほら。やっぱり邪魔にしかならないじゃないか。
僕は、彼女を困らせるだけだ。

「邪魔なら帰るけど」

「そんな事ないよ!」

言葉を遮らんばかりの即答に喫驚する。
思い上がり、かもしれないけれど、まるで、僕を引き留めるみたいだった。

「いてくれた方が嬉しい」

消えそうな声でそう呟いたのを、僕は聞き漏らさなかった。けれど、聞いてはいけなかったような気がした。

「完成図、見ていいかな」

彼女はほんの少し前より柔らかい笑顔で、構成を説明し始めた。
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