少年少女リアル
 中庭の向日葵が意気揚々と咲いている。
正反対に、地理の教師は項垂れて水をやっている。まるで向日葵に生気を吸い取られたみたいだ。


夏休みでも冷房が効いているのは図書室だけだった。
蝉時雨が降り注ぐ下、登校してきた僕には、涼しい場所で蝉の声を聞くのは何だか不自然な感じで。


「その本、どうだった?」

鞄から出した『紫陽花』を顎で指す。返却のために、持ってきたものだ。

「夏目さんの言ってた意味がよく分かったよ」

僕の返答を聞くと、夏目さんは満足そうに頷いた。当たらずとも遠からずだった、とは言わないでおく。

「焼けたね」

突拍子もない言葉に、疑問符が浮かぶ。一時停止して、ようやく肌の事だと理解した。
夏目さんとの会話には、かなり慣れてきた方だと思う。

「少し健康的になった」

「前から健康だけど」

「この間まで、今にも倒れそうな顔つきだったじゃない」

そんな事ない、と返そうとしたけれど、はっとして言葉を呑んだ。


そうか。
向井さんとの事があって、生きた心地があまりしなかった。罪悪感や恐怖感が入り乱れて、それを隠すのにいつも必死だった。

気付いていたのか。
僕が思っていたよりも、どうやら、夏目さんは僕を見ていたらしい。僕が夏目さんの急な会話に慣れるよりも、ずっと早く。

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