少年少女リアル
 彼女の目が涙で満たされていく。

「好き? 勘違いするなよ」

それでも、口は止まらなくて。
怒りなのか、嘲りなのか。こんな時に、僕の口元は変に笑う。

「そんなの好きって言わないんだよ」


皮肉なものだ。
僕に愛など語る資格はないのに。知らないはずなのに。

僕の物差しが、偉そうにそのような答えを出す。
曖昧すぎる定義が彼女を拒絶する。

「前も言ったけど、あの時は理性飛んでたんだ。別に向井さんに恋愛感情があったわけじゃない」

きつい目を向ける。
途端に彼女の目から一粒目の涙が流れていった。
暗く光りながら、輪廓をなぞる。

僕の脳がようやく息継ぎを始めた。
苦しくて、言葉がなくても、泣きそうだ。

今になって動き出した頭が、感情を抑えようと機能する。

「だから、謝った。だから……忘れてほしいって言ったんだ」

抑えきれない分が、声を震わせる。呑み込む息は血みたいな味がした。

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