少年少女リアル
 安心したのか。少なくとも、ここへ来るまでよりかは、楽になった気がしていた。しかし、それも束の間。


ドアを出た瞬間、足が今度は氷になった。
職員室の前で、しゃがみこんだ向井さんが目に入ったからだ。

透き通った目が僕を捉える。
蘇る記憶がまだ鮮明で、残酷だった。

「……っ」

過呼吸になるのじゃないかと錯覚するほど、苦しい。
僕は目を逸らす事叶わず、身体全体が凍ったように動かなくなった。


今更、何て言えばいいんだ。

向井さんはひょいと立ち上がると、無言で近づいてきた。
寸前で、慌てて飛び退く。あ、動いた。

彼女がドアを閉めて初めて、ドアが開いたままになっていた事に気付いた。


「ちょっとだけ、話せないかな」

僕に断る権利はなかった。
生憎、彼女と話す内容なんて、他にはない。
真っ白になった頭では、小さく頷くしかできない。

肝を握られているような気持ちで、彼女の後ろをついて行った。
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