少年少女リアル
 他人事だからか、夏目さんはどこか楽しそうだ。

「一年生の席から黄色い声が飛んでいたから、忙しくなる事間違いないわね」

「執事のどこが良いんだか……」

実際の執事なんて老翁ばかりだし、そもそも、燕尾服はやり過ぎだ。

「正装っていうだけで、女の子にはきっと三割増しに見えるのよ」

瞬時に向井さんの赤らんだ顔が浮かび上がってきた。

好きだなんて、冗談じゃない。


「良いじゃない、手の込んだ衣装で。私なんか、怪しい薬売りの役なんだから」

夏目さんが怪しい魔女のような格好をしているのが、安易に想像出来た。

まさに適役だと笑いが込み上げる。

「笑うなんて失礼ね」

そう言う夏目さん自身、頬が上がっている。劇を見に行けないのが心底残念だと思った。
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