先生はケダモノ
 

ねえ、期待してもいいんですか。



私は先生を想う気持ちを諦めなくてもいいんですか。



訊ねたいことは山のように沢山あるのに言葉を綴ることができない。

何故ならば、

ゆらゆらと揺れる視界でも先生の表情をはっきりと捉えてしまったから。



後悔の色を浮かべた表情を───



じっと見つめてくる先生の双眸に、ぎゅうっと心臓が握り締められたかのように痛みだす。
その形の良い口唇が紡ぎ出すであろう言葉を理解して。





「…悪い、桐生」





ああ、やっぱりな。

そんな風に頭で理解しても、心までは無理で。


ずきん、


胸の裡の軋みと供に、ぼたり、涙が頬を伝い落ちた。





ああ、逃げてしまいたい。




叶わぬ想いから。


何よりも、先生の腕の中から───








 ◆








「…離して、…離してください…っ」


ぽろぽろ、と。こぼれ落ちていく涙を拭うこともせず、逃げ出そうとする彼女。

囲い込んだ腕や胸を懸命に押しのけようとしている。



けれども、俺に彼女を逃がす気など一切ない。



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