地獄からのメッセージ
最終章 地獄




俺は、タイから日本に戻って来た。


国内では、日垣電機の常務と秘書がタイのバンコク市内で、工場建設予定地の視察中に、マフィアの抗争の巻き添いで亡くなったと報道している。


犯人は、中国系タイ人のマフィアで、対立するマレー系のマフィアとの賭博利権の争いで抗争となり、現場が建設予定地の直ぐ近くだった為、事務所爆破の際、偶々通りかかってしまい、被害を受けたとの事である。


俺の事は一言も出ていないのを知って、可笑しくなった。


日垣本社は事実隠蔽に必死になり、そのお蔭で俺の正体もばれなかったと言う事である。


しかし、日垣グループは俺様のことを探しているはずである。


追いかけられるのは嫌だから、こっちから出向いてやる事にした。


殺された常務は、日垣社長の実弟で、世田谷に住んでいた。


今日はお通夜の為、必ず兄貴の社長は現れるはずである。


俺は、車を飛ばしR246を南に走り、三軒茶屋から駒留通りへ進み、突き当たりの三叉路に出て、右に折れ大山道から桜小前で世田谷通りに出る。


出来るだけ目立たないように、こんな裏道を通ったら、かなり時間が掛かってしまった。


世田谷通りを左に折れ、東京農大の前を通って更に南に進み、最初の信号を右に曲がると桜丘3丁目である。そこの一際目立つ大きな屋敷が常務の自宅である。


少し離れた所に車を止め、赤外線スコープ内蔵の双眼鏡を手に屋敷が見渡せる場所へ移動した。


入り口付近を見ていると、夕方をかなり廻った午後7時過ぎに社長は秘書を連れて遣って来た。


この秘書もどちらかと言えば用心棒の風体である。


彼らが出てきたのはそれから2時間が過ぎた頃である。


玄関まで出てきた常務の未亡人は、銀座の高級クラブでホステスをしていたところを見初めて後妻にしただけ有って、かなりのいい女であった。


社長はスケベそうな顔をして、この未亡人の顔を覗き込み、慰める風に肩を抱き何事か囁いていたが、直ぐに迎えを車が玄関に廻されてきたので、その車に乗り出て行った。







< 59 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop