失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
冬休みの宿題を
ほとんどやらなかった僕は
またしても新年早々から補習の嵐で
夕暮れにとぼとぼと学校の門を出る
しばらく部活にも出られない
暗い日々が続いた
担任には頼むから進級してくれと
言われるほどのこの半年
出来れば引きこもりたかったが
そんな消極策が許される家庭では
決してない
心優しい父のポジティブなパンチが
飛んでくる…健康的だ
今日も夕日を見ながら
兄の居ない我が家へ帰ろうとすると
校門で例の部活のパンク仲間が
僕を呼び止めた
最近部活来ないけど?
ああ…"補・習"
僕は暗く答えた
人生吹き飛んで今度は自分まで
消えそうな顔してるな…お前
例によって勘の良いヤツは
僕の心を読めるかのようだった
…お前人の心が読めのるか
そいつはフフッと不敵に笑った
オレ様がいま将にそんな感じなんだ
同病相哀れむということだ
こいつもなんか重い物背負ってるな
僕はそう思った
お前はなに背負ってるんだ?
僕は逆に聞いた
ヤツは虚無的に笑った
オレの背負ってる荷物は極秘事項だ
取引はお前の秘密と引き替えだな
僕はうっ…と来た
駄目だ…僕の秘密は特Aクラスだ
話したら破滅する…僕だけじゃない
一族郎党壊滅だ
ヤツは言った…それはオレも同じだ
関係者は社会的に抹殺される
二人は黙って顔を見合わせた
なんでそんなことに?
僕は自分のことを棚にあげて
思わずヤツに訊いた
自分がこんなことになるなんて
一年前まで知らなかったよ
小説とか映画とか…非現実だ
でも戻れないし戻る気もない
ヤツは僕の顔を見た
オレに秘密があることをバラしたの
お前が初めてだ
お前はどうだ?…とヤツは言った
僕も…だ
礼を言うぜ…とヤツは言った
なんで?…と僕は聞き返した
ちょっと煮詰まってたんだ
だけど少しガスが抜けた
お前もガンバレ…じゃあな!
ヤツは勝手に去って行った
僕もだ…
僕は心の中でヤツにエールを送った