失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】



嘘だ

あれはたしか…たしか

バイト先のグループだったはず

名前は…

僕は物凄い勢いで記憶をたどった

それには名前がなかった

そして最近の履歴に何度となく

繰り返して現れていた番号

だから覚えているんだ

だからどこかで見たと

兄のバイト先の家庭教師派遣の

事務所?

いやそれは違う

では派遣先の?

名前がないのに派遣先?

…カモフラージュ

兄は隠したのか?

わからないように?

だがなぜ?

あの人の彼に電話をかけるんだ?

兄はそんな話は一度もしなかった

兄を脅したヤクザっぽいヤツらか?

だがあの静かな声は

そいつらの声とは




あっ




その時僕は

あの部屋を思い出した

まさ…か

僕の予想が正しいなら

ああ…なんてことだ

もう

それしかない

なんという悪意

あの傷

あの火傷

あの手錠

兄貴…

破滅させられる

兄貴はあいつが誰か知らない

嫉妬だ

あれは復讐なんだ

ああそうじゃないって

誰か言って…

僕はがくがく震えていた

両手で口元を覆って叫ばないように

だけど

あああ…

どうしよう

あの部屋はまだ業火の中だ

兄を切り刻み肉を焼いて

なぶり続けて

破滅させる



兄に逢わなきゃ

早く

早く

あいつはまたやって来る








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