失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
どこかわからない
ホテルのベッドにいる
今日も薬で身体を奪われて犯される
苦痛でしかない行為に
悶え苦しむ
それを見て猛り
激しさを増す彼…緩むことのない轡
ようやく辿り着いた僕という獲物
僕が彼を愛せないように
彼も僕には心を奪われない
じわじわと僕を壊す快楽
復讐の標的
身体だけがこの男に飼い馴らされて
直に闇が僕の中にも入り込むだろう
もっと気持ちよくなれたら
もっと狂えれば
こんなに苦しまずに済むのに
それでは復讐にはならないと
彼の拷問は続く
愛せない者に貪られる苦痛が
毎秒毎秒僕の胸を襲う
夕方には解放される
僕を日常の中に生かしておくために
自分の痕跡を消し
僕の痕跡を隠し
悪夢を日常に溶かしこむ
じわじわと真綿で首を絞めるように
僕の心を殺して兄と隔離するために
生殺しにして生かしておく
ただ夕方はまだ遠い
車でどこに連れて来られたかも
わからないように
最初に僕は意識を奪われる
目が覚めた時にはもう裸で縛られて
ベッドの上で弄ばれている
そしてただ延々と辱しめられる
お願いだから
もっと気持ち良くして
もっと狂わせて
苦しい
苦しくて泣き叫ぶ
その声が彼の嗜虐を更に加速する
僕の苦しみが彼に伝わる
復讐が順調に執行されていることを
彼は知り
微笑む
「汚し尽くしたいな…君のその無垢
な部分が跡形もなく黒く奇形する
まで…何度でも何度でも君を殺して
生き還してあげる…君が苦しんでも
私になついても私の勝ちは一切
変わらない…私が君の兄さんに
一切勝ち目のないようにね…」