失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
彼は言う
「君の名を私の腕の中で呼ぶんだ…
犯され続けて責められて錯乱して
意識を失ってうわ言を言い始める…
君の兄さんは君の名前を呼ぶ…」
彼は僕の頚に両手をかける
「私は死にたくなる…君が居る限り
私は心を砕かれ続ける…君を
殺したくて殺したくて気が狂いそう
になる」
彼は僕の頚を絞め始める
僕の意識が朦朧としてくるまで
彼は絞め続ける
「だが君の兄さんは…君が死んだら
きっと君の後を追って死ぬだろう
そんなことはわかっている」
彼は返事も出来ない僕に
淡々と語り続ける
「君も私も本当に欲しいものは
手に入らない…君は兄さんと一緒に
いたい…私は彼の心が欲しい
だが我々は願いが叶わない
ほら…一緒だろう我々は互いに
同情すべきだ…違うかい?」
朦朧とする僕の髪をつかんで
引きずり起こす彼
「だがな…兄さんの身体は今は私の
ものだ…君は触れない…彼には
逢うことも出来ない」
僕はベッドから引きずり降ろされる
「私に抱かれてよがって悶える彼を
君に見せてあげたいな…私の体を
求めて泣いてすがる彼をね…どんな
風に狂ってどんな風に欲しがるのか
君は知ってる?ふしだらな兄さんの
よがり声…彼は頭から爪先まで
余すところがないほどの淫乱だ」
床の上に寝かされ彼は僕の身体を
足先でなぶり顔を踏みつける
「兄弟なのにな!罪が深すぎる」
彼は勝ち誇ったように僕を見下ろす
「罪深い淫らな兄弟だ…互いに
真っ当な兄弟愛で普通に思いあって
いればいいじゃないか…あの親子の
血は呪われてるな…君は犠牲者だ…
いや…」
彼は僕の顔に唾を吐いた
「最悪の犠牲者は…私だ」